沢木耕太郎『キャパの十字架』(文春文庫、原著2013年)を読む。
スペイン内戦(1936-39年)はスペイン市民戦争とも称される(英語では「civil war」)。解説において、逢坂剛は、「civil」には国内という意味があり、アメリカ南北戦争も「civil war」なのであるから、あくまで内戦と呼ぶべきだと書いている。しかし、この戦争は、ファシズムとの闘いをわがこととして他国の市民が駆けつけた戦争でもあり、その重要性をもって市民戦争と呼んでしかるべきなのではないか。
その視線があったからこそ、ロバート・キャパが撮った写真「崩れ落ちる兵士」は傑作として位置づけられ、イコンのように扱われ、キャパに一躍名声をもたらすこととなった。その一方で、この写真は、本当に、共和国軍の兵士が反乱軍の銃弾を受けて死んでゆく瞬間をとらえたものなのかという真贋論争の対象となってきた。
著者は、他の写真や証言をもとにして、写真が撮られた過程を検証していく。そして、導き出した答えは「贋」であった。そこには、若くして戦場で亡くなった恋人ゲルダ・タローの存在も関係していた。
冗長さはあれど、まるで推理小説においてパズルを解いていくようなスリルを覚える。使われたカメラが、ライカIIIa(またはライカIIIがあとでIIIaに改造されたもの)と、6x6の中判(本書ではローライフレックスとされていたが、その後、レフレックス・コレレであったことが判明)だったという事実をもとにした推理も面白い。ただ、上から覗く逆像ファインダーゆえ、咄嗟の動きに対応できず、兵士の姿が端に寄ってしまったのだとする推測には納得しかねる。さほど扱いに習熟していなくてもすぐに身体の動きと連動しうるものであるし、何より、「崩れ落ちる兵士」の構図は、兵士を左側にとらえることで完成度を増したものであるように思える。
●参照
スペイン市民戦争がいまにつながる
ジョージ・オーウェル『カタロニア讃歌』
ギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』
室謙二『非アメリカを生きる』
ナツコ(沢木耕太郎『人の砂漠』)
『老人と海』 与那国島の映像(沢木耕太郎『人の砂漠』)