御茶ノ水のgallery bauhausにて、稲垣徳文写真展『HOMMAGE アジェ再訪』。
ウジェーヌ・アジェは19-20世紀にパリの街風景を撮った写真家であり、言うまでもなく、いまもパイオニアとして崇敬されている。
稲垣徳文さんは、その記録をもとにパリを訪れ(事前にgoogle streetviewで丹念に調べたという)、ディアドルフの8×10カメラで同じ場所を撮った。レンズはフジノン180mmのようである。大判であるからシャッタースピードは遅く、10分の1とか、速くても30分の1。わかっている人はじっと待っているが、動いて流れてしまう人もいる。
そのネガが、通常の銀塩の印画紙と、鶏卵紙の両方に焼き付けられている(密着焼き)。稲垣さんによれば、フランス製の紙に、直前に鶏卵等の乳剤を塗り、日光のもとで10分焼くのだという。
比較してみるととても面白い。銀塩では影となって黒く潰れてしまうようなところも、鶏卵紙では細かくディテールが表現されている。片方では出てこない文字がもう片方では出ていることもある。つまり、この特性が、遡って写真撮影にまで大きく影響してしまうことさえも意味する。鶏卵紙は何もレトロな効果を狙うためのものではなく、いまとなっては、まったく新しい表現手段とみることもできるのだ。これには驚いてしまった。
稲垣さん曰く、紙のpHによっても像のでかたが左右されることがわかったから、さらなるコントロールもできるのだという。今後の作品の集積が楽しみである。
ところで、最新の『日本カメラ』(2017年5月号)にはこの作品の一部が掲載されているが、残念なことに、色がすべてモノクロとなってしまっている。