グレッグ・イーガン『ゼンデギ』(ハヤカワ文庫、原著2010年)を読む。
本作は、イランにおいて明らかな不正選挙を指摘されたアフマディネジャド大統領再選の直後に完成した作品であり、民主化を求める運動が高まっている様子を描いている。その中で出会ったオーストラリア人・マーティンは、イラン人と結婚し、ふたりの間に息子が生まれる。しかし妻は交通事故で亡くなり、マーティン自身も病で死を意識せざるを得ない。残される息子のため、あるいは死んだ後の自分自身のため、マーティンは、IT研究者に、「ゼンデギ」というネット上の仮想社会にマーティン自身を作り上げてほしいと依頼する。
本作の舞台のほとんどはテヘランであり、「ゼンデギ」はペルシャ語で「life」を意味するという。人間のネット上のコピーを、完全な脳内マッピング以外の方法で行うことがミソであるようだ。
しかし、ネトゲが人生の一部となっていくことなど、いかにもありふれている。肉体からネット空間に存在を移行させていくことについても、イーガン自身の『ディアスポラ』のほうがはるかに斬新で過激だった。