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いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』

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いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』(講談社学術文庫、原著2002/06年)を読む。

この奇書は、かつて講談社から出された「現代思想の冒険者たち」シリーズ(桜井哲夫『フーコー 知と権力』など)の月報に連載された作品をもとにしている。わたしもこのシリーズの何冊かは読んで、ついでに月報も楽しんだし、それが集められた単行本(2002年版)も大事に持っている。ただ迂闊なことに、2006年に増補版に出されたことを知らなかった。本書の底本になったものは2006年版のようなので、あらためて買った。

難点といえば、文庫だから字が小さすぎることか。いしいひさいちは敢えてごにゃごにゃとセリフを書き込むこともあって、ちょっと読みづらい。

それにしても、本当に面白く、ときどき引きつって笑いだしそうになる。何しろ、思想家たちがみんなどうしようもない頑固な変人に変身してしまっているのだ(実際にそうでもあったに違いないのだが)。

たとえば、ニーチェが「つくる会」の教科書採択を審査する教育委員会の委員になっている(もちろん、ここだけでニーチェ研究の西尾幹二氏なわけで爆笑する)。それで賛否を問われ、ニーチェ先生は「この『つくる会』の言動については昔いじめられた日教組に仕返ししてやるが如きルサンチマンを感じてまことに不愉快だ。」と答える。しかし、話はそれでは終わらない。読むと脇腹が痙攣する。

またたとえば、レヴィ=ストロース先生に自作と『知の考古学』との違いを問われたフーコー君は、「たとえば文学作品とはその時代のエピステーメーつまり『知の体系』に作られた作者によって作られた作品に影響されて作られた作者によって作られた作品に作られた作者によって・・・」と滔々と答え、先生を呆れさせる。まさに平行する無数の宇宙を語ろうとするフーコーを表現する、いしいひさいし魔術。松岡正剛氏による「アーカイヴ(<アルシーヴ>)の奥に潜む構造を重視している」との『知の考古学』の書評が180度ずれていることに比べて、百万倍まっとうで可笑しい。

さすが天才・いしいひさいち。


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