オクテイヴィア・E・バトラーの遺作『fledgling』(2005年)を読む。
洞窟の中で記憶喪失で目覚めた女性はヴァンパイアであり、部族間で争うという物語。彼女たちは人間の支援者たちと共生するのだけれど、そのあり方は、ヴァンパイアがときに人間の血を吸い、人間はそれで弱りつつも他の力を得るというもので、奇妙におもしろい。
バトラーがなぜ再評価されているかといえば、SFの想像力によって黒人としてのアイデンティティや直面する問題をとらえなおしているからだろう。フルートのニコール・ミッチェルも大きくバトラー作品にインスパイアされているし、それは抑圧の歴史や社会が宇宙や架空世界をモチーフにした音楽の想像力を爆発させてきたアフロ・フューチャリズムを考えれば不思議ではない(サン・ラだって、アース・ウィンド・アンド・ファイアーだって)。
『fledgling』にも、ヴァンパイアが痩せた白人でないこと、メラニンがあるために昼間でも大丈夫なこと、異なったものたちが共生を模索していること、レイシズムのような憎悪が争いを起こすことなど、たくさんの仕掛けやアナロジーがある。邦訳されたバトラーの長編小説は『Kindred』だけで、長いこと入手困難な作品だったけれど、最近文庫化された。解説だけでも読みたいから買ってみようかな。
●参照
ニコール・ミッチェル『Maroon Cloud』
ニコール・ミッチェル『Mandorla Awakening II: Emerging Worlds』
「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)
オクテイヴィア・バトラー『キンドレッド―きずなの招喚―』
大和田俊之『アメリカ音楽史』